銃声を子守唄に育った少年がいた。
少年が一番最初に与えられたおもちゃは小さなナイフであり、今年の誕生日贈られたのは銃であった。
真新しい贈り物を手に持ち少年は狙いを定める。
「子守唄」の音を自分で響かせたのはそれが初めてだった。
少年は積み木のお城に歩み寄り、しゃがみこんで弾痕を見る。これは自分が刻んだ痕なのだ。
そうだ、よくできた。良い子だ。
しわだらけの手が頭を撫でてくれる。葉巻の強いにおいが鼻をつく。少年はこのにおいが好きだった。
良いかね。ここには全てがある。我らのもの。我らのものだ――お前も名誉ある男になるのだよ。
少年は大きく頷く。
銃を構える。狙いを定める。
さあ、花束の用意を。










きらきらと光る名を持つ少女がいた。
少女は食べて、食べて、食べて、食べて、食べて、食べて、食べていた。
肉を魚をパンを果物を、小さな手で次々と掴み大きな口に放り込む。
うまいな、うまいな、全部うめェな! しあわせだな!
少女はにこにこと笑う。
日常は過酷で、目に見えぬ意地の悪い何かが少女の全てを踏み潰そうと次々とやって来たけれど、 そのどれもが少女の尊厳を踏みにじるに足るものではなかったのだ。
服はぼろぼろで体中は汚れているが、少女の心は少しも汚されることはなく、宝石のようにきらきらとしていた。
食事を終えた少女はごろんと寝転がる。明日もたくさん食べられたら良いなと考えている。
少女はまだ知ることはない。
宝石みたいに輝く海には、食べきれないほどのごちそうのような世界が待っていることを。










ろうそくの揺れる炎を見つめる少年がいた。
カードを繰る手は止まったままだ。
少年の双眸はいつもほとんど瞬かず、なので動かずにいるとまるで心の無い人形のように見えるのだ。
闇夜の体に月と星の色の瞳を浮かべた猫が、足元でみゃあと鳴く。
おばあさまは、いつかおれが海へ行くと言っていたけれど――頬杖をつき、じっと炎を見る。
まだ少年にはそんな未来のことは解らない。自分の「今日」が見えるだけだ……人の終わりは見えるのに。
雪降る朝に街ですれ違った男。
蝶が羽ばたいていた――“それ”は魂の化身だと理解したのはいつの頃だったろう――彼は今日にも死ぬのだろう。
それを思い、そしてすぐに忘れ、少年はまたカードを並べ直し始める。
呪わしい炎の色の他には、何一つ映っていない瞳のままで。












音を愛し音に愛された少年がいた。
少年にとって世界の全ては音楽だった。
外来の者を拒むように高く鋭くそびえる岩山に、強大な渦に囲まれるがゆえに、少年の住む島に他所からの客がやって来ることは無く、ここに住む者達も「外」の世界を知らなかった。
カモメの新聞屋が届けてくれる新聞が外のことを知られるほとんど唯一の手段だった。
だから少年は知りたかった。外を、世界を、もっと面白いものを。
剣山岩の一番てっぺんまで這い登り、海の遠くの遠くを眺める少年だった。
島の者達が時におびえ時にうるさがる波の音も、少年には美しい音楽なのだ。
少年は鏡の前で自慢のヘアスタイルをセットし終わる。よっし、きまった!
気分良くピアノの前に座り、長い指を鍵盤の上で踊らせていく。伴奏は波の音。今日の海は機嫌が良いようだ。
少年の心をそのまま映し出すその音は、色に溢れ、なんときらめきに満ちていることだろう。
色を、音を、世界を、少年は、もっと全てを知りたいのだった。










少年はガレキの山の王者だった。
鉄くずに埋もれ油にまみれ汚れだらけで、それでも少年は王者だった。
その心の名を少年はまだ知らなかったが、決して豊かではない暮らしの中で少年は「誇り」というものをもって生きていた。
これが生きるということなのだと、その少年は生まれながらに知っていた。
選び抜いた鉄くずを接合して作り上げた「宝物」を見て少年は笑う。
お前はすごく強いんだ。かいじゅうと戦っても負けやしない。
ガレキの山のてっぺんで遥かの世界を見渡し少年は高らかに笑う。
ここからはいつも大きな海がよく見える。あそこには心をふるわせるたからものが無限にあるらしい。
なあ、行こうか? いつか。
王者の少年の胸の海には、誰より大きな炎が赤らかに燃えていた。










真っ白なカモメに憧れる少年がいた。
頭にのせて貰った帽子を何より大事な宝物のように、決して手放しはしないというように、ぎゅっと握って深く被る。
おお、似合うじゃないか――言われた少年は誇らしげに無邪気な笑顔を見せる。
ぶかぶかの靴で転びそうになりながらも、姿勢を正し、敬礼なんてしてみせたりもした。
ああ、違うんだ。お船の仕事をしてると手が汚れちまうからさ、それを偉い人に見せるのは失礼だろ? だから手のひらは内側に向けるんだよ。
少年の頭にぽんと帽子をのせてくれた大きな手は確かに汚れていた。
しかし少年はそれを汚いだなんて思いはしなかった。強い、優しい、かっこいい手だ。
みんなが海で悪いやつらをやっつけて、ぼく達を守ってくれてるんだ。
少年の見上げるその人はとても大きく、その更に頭上の空には沢山のカモメが舞うのが見えた。全部が眩しかった。
ぼくも、ぼくも、いつかぼくも。
空の青さを映し出す海のように、海からの輝きを受けて少年も眩しく笑う。
やがてその手が真っ黒なものに包まれることを知らないから、少年は、そのカモメのように真っ白な手で敬礼をする。












天国に近いところに生まれた少年がいた。
大事に大事に両手で持ったヴァースの重さ、そのあたたかさを感じて少年は微笑む。
本や植物も珍しいけれど、やっぱり自分達が一番に待ち焦がれているのはヴァースなのだった。
父上達がおっしゃっていました――いつも遊ぶ友人の一人の言葉を思い出す――「下」には一面のヴァースがあって、そして海は青いんだそうです。
この空のように青い海。
それが少年には想像がつかず、ヴァースと青い海とへひたすらに憧れを募らせていく。
青海から来た人、青海へと行った人の話は時々耳にする。
――それなら、私もいつか行けるのではないだろうか?
ふと、少年は空を――この空の上のもっと上を見上げる。
夜空に輝く姿を見ては、なぜだか無性に懐かしくなるあのひかり――お月さまと遠くなるのはさびしいけれど……。
お空のように青い海。あたたかなヴァース。そこにいる自分を思って、少年はその手でヴァースを抱き締めるのだ。










その少年は木の上で海からの風を受けていた。
島の外れの小高い丘。そこに立つ大きな木の一番上は少年の特等席だ。
猫のように身軽に駆け上る少年よりも高く登れる者はこの島にいない。
大好きなお母さんの手作りパスタを一杯に頬張り少年は満腹だった。いつの間にかくうくうと寝息を立て始める。
気付くと空が真っ赤だった。
ここから見る夕焼けの海を少年は愛していた。夕陽で海が燃えている。
――だけど今、海にはかいぞくがたくさんいるんだよな……母さん達が小さい時はここまで多くなかったらしいのに。
彼の住む島の近くの海では被害もなかったが、海賊達のことは毎日のように新聞で目にしていた。
いやだなあ。もっと色んな海が見てみたいのに――燃える海が見たいのに。
赤らかな陽を受けて少年の髪は黄金に輝く。
いつかのある日、少年は、燃える海と――海を燃え上がらせる男と出会う。










少年の眼は薄暗い曇り空の時の海と同じ色をしていた。
ああ――と少年は息をつく――ああ、ああ、と立ち尽くす。
そこで手に“患者”を持ったままだったことを唐突に思い出す。
……だけど、今日はもういいや。
よく麻酔の効いた“患者”を顔の高さまで掲げ、その緑色の体をじろじろと眺めた。
ここを開くと心臓があって肝臓があって脂肪体があってそしてそして……バラバラになる。
自分が今、学んでいっているものは何なのだろう。
ヒトを生かすもの? ……殺すもの?
だけど――今日はもういいや。今度じっくり考えよう。
だけど、命令され続けるのにはもううんざりだった。
突然として少年は、糸を切られた人形のようにぱったりと倒れる。
……最近笑ったのっていつだっけ? ……外の世界には何があるんだろう?
――まあいいや……今日はもう寝よう――少年はまだ見たこともない海の夢を見る。そこでは少年は笑っている。
















☆なじ☆
みんなが自分の幼少時と触れ合うならどんなかなっていうのを描きたかったのと、
絵とは関係ないけど一緒に文章もつけてみました。
ところでロー少年が今にも人をぶっさしそうな感じになっちゃいましたすいません!


11.11.16







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