どんなにあの花の存在を感じようとしても、香りがしない。
あの花の匂いが嗅ぎとれないなど、そんな筈はないのに。

それはこの世の美しさ全てをその身に吸収したかのような花である。
沙羅樹よりも儚くて、蓮の花より汚れ無い。姿は蓮華に似るが、それよりも倍は大きな花だ。群生の花なので小さな可憐な花がそこかしこに見られる。
花の色は純白としか言いようが無いほど真っ白で、花びらは太陽の光を受けて七色を帯びるのだ。夜明け、太陽が昇るのと時を同じくして花開く。 その時の花の色が1番美しいことを彼は知っていたから、他の者が寝静まっている早朝に、ひとり、この世のものとは思えない美しい光景をよく眺めていたものだった。何よりその花の清楚な甘い匂いが好きだった。
この花の名は誰も知らない。
元々は青海の花で、その種子が風などによって空へと飛ばされてき、空島の環境に適応して現在の姿になったと言われている。 他の青海から運ばれてきた植物は島雲にも根付き正常に育つのに、その花だけはヴァースのみにでしか咲き誇ることはなかった。
彼らの国ではヴァースは神が在るべき場所と考えられていた為に、国の一部の地域にしか存在しないヴァースに咲くその花は正しく神の花…ダイアンサスと称されたり、或いはその貞女のごとき姿からサティーと人々は呼んだ。 彼はサティーという呼び名の方が好きだった。
その、サティーの花の匂いがしないのだ。
何故だろう。ぼんやりとした頭で考えた。
空を見ると黒い雷雲が晴れ、青空が見え始めているところだった。ここは空がとてもとても近い。
あの雲間から光が射せば、ヤコブの梯子と言うのだったかな。そんなことを思った。




この世界に神などいない、と彼は言った。
柔らかな光を帯びた花びらが無限に舞う白い空間の中、自分は透き通った木の枝に腰掛け、林檎を齧りながらその言葉を聞いた。
彼は数十メートル程手前の地面に立ち、じっとこちらを厳しい目で見ながら言った。
彼の目には怒りと憎悪が込められていたが、その感情さえ心地よい。
自分が腰掛けている林檎の木の根元と彼の足元には、幻想的な光が灯っていた。
「無神論者、か。元神が」
「それはこの空の国の長に与えられるだけの名称だ。真実の意味での神などおらぬ」
「つまりお前は神の存在を信じない、ということか?」
「…ある意味ではそうである」
答えを聞いて、興味が無いように林檎を齧り、ごくんと飲み込んだ。
「神はいるよ、ガン・フォール。目で見えなくとも、神は常に人とある、そして人は神を敬い恐れる」
「己の目で見えるものしか信じぬという人間も、山ほどいるであろうが」
一つ目の林檎を食べ終えたので、手を伸ばして新しい林檎をもぎ取った。その間も彼は黙って自分を睨みつけていた。
花びらはひらひらと降り注ぐ。
「私の質問に答えてくれよ、ガン・フォール。死ぬ事は怖いか?」
突然の問いかけに、彼はふっと目を和らげた。だけどそれもすぐに戻った。
「殆どの人間はその問いに頷くであろう…いや、死を恐れぬ人間などいないかもしれぬ。…我輩とてそうだ」
足首に花びらが付着したので、宙に浮いている両足を前後に揺らした。
花びらが取れた後も、ぶらぶらと交互に足を揺らす。揺れそのものを楽しんでいるように。
そうか、と小さく言った。
「私達はそうは教わらなかった…」
俯いていた顔を上げて、彼を見下ろした。
「私達にとって死は日常的に存在した。だから死は生と等しいのだと…死は生であり生は死なのであると…。ふたつは等価値で、そこに恐れは存在しないのだ」
それでも、最期の時にやはり彼らは死を恐れた…突然足場を失い、宙に放り出された人間達の絶望と執着の表情…。
それを見てなお自分についてきた”彼ら”こそが死を生と等しく見ている。
「……それで貴様は何が言いたいのだ」
「”死”だって存在しないだろうということさ」
嘲るように笑った。
「神と同じ様に”死”そのものは目には見えないのに、お前は神は信じず死は怖いという。ヤハハ、矛盾じゃあないか?」
まだ足を揺らしながら、今度は子どものように笑うと、彼は身を硬くした。
「詭弁である」
その声は先ほどまでよりも弱かった。
彼は花びらの眩しさに目を細めた。
ああ、この世界は美しすぎるな。
「なあ、ガン・フォール、本能だけで生きる動物達と違って人間には神が必要なのだ、救いと、恐怖から逃げる為と。
けれどその為の神は人が作り出したものさ、そうだろう。そんな人造の神ではない、真実永久の神が初めの昔からいるのだ」
彼は首を振った。振り続けた。
その首の動きによって起こる微かな風によって花びらは踊り狂う。ひらひら。ひらひら。
「ガン・フォール、神は信じる信じないの次元ではなく、神は”神”なのだよ。ただ在るんだ。
それに、だ、何かの存在を否定するにはその存在を認めなくちゃあいけない、ほら見ろ、その時確かに神は在る」
齧りかけの林檎が手からするりと落ちた。落としたのだった。
ぽおん。転がった林檎の下にもこの木や彼と同じ様に、影の代わりに仄かな光ができた。
口元についた果実をぺろりと舐め、彼を見つめた。
「フェアリーヴァースへ来るか、ガン・フォール」
この国の人間には耳慣れない言葉だろう、神が在るべき土地。
「お前達に限らず空の者達が憧れてやまないヴァース、空にあるような少量の大地ではない。そこは空と同じ様に大地が無限にある世界だ。
青海人にとっての天国が空ならば、我々にとっての天国は大地ということだな」
「…何を、言っておるのだ。無限の大地、だと?」
「そうさ。まさに夢の世界だろう?私は神としてその地へ還らねばいけない、”神”はそこに在るべきなのだから…」
「我輩がそこへ行く必要がどこにある」
「約束の地に住むことが許されるのは、選ばれた者だけだというのは昔からの決まりじゃあないか…以前は神だったお前にも、そこへ行く資格があるということさ」
…彼は空を仰いだ。
ここは白い白い空間で、見上げても見えるものは休む事無く舞い落ちてくる花びらだけだった。
何か見えるのだろうか、と、彼と同じ様に空を見上げたが、ガラスのように透き通った枝と葉の間から見えるのは、やはり花びらと白い空だけだった。
「我輩の、生まれた所はスカイピアだ」
空を見上げたままの彼が言う。
「この国は我輩にとって母である。どこまでいってもそれは永遠に変わらぬ。どれほど大地に憧れていようとも、それでも空を愛しているのだ」
自らが生まれた空を自らで否定する自分には、彼の言葉の本当の意味を理解できることはない。
両腕を枝について、つまらなそうに右足だけぶらりと揺らした。
「私はきっとフェアリーヴァースが故郷なのだ」
淡白な声でそれだけ言った。
少しの間、どちらも何も喋らずにいて、花びらが舞う中ふと気付いたように尋ねた。
「そういえば、この国にはサティーはないのか」
「サティー?」
逆に聞き返してきた彼を、とても不思議そうに見た。
「知らないのか、サティーだぞ。ああスカイピアではダイアンサスと呼ぶか?それとも別の名かな、光を受けて七色に輝く美しい花のことさ」
彼は少しだけ考えて、それから答えた。
「知らぬ。そのような花は聞いたことが無い。お前の生まれたビルカにのみある花ではないのか」
「…ビルカ…?………ああ…あァ、ビルカ、か。そうか、ビルカというのだったな…」
その言葉に、彼は訝しげな表情でこちらを見ていた。
当の本人は素知らぬ顔で考え込む様子を見せ、ややあってから顔を上げて笑った。
「ビルカとは神の名を持つ国だぞ」
この世界に神などいない、と彼は言った。




初めて耳にする音が聞こえていた。
これまでのように、自らが聴こうと思って聴こえてきていた”音”ではなかった。何だろう、この歌声のような美しい音は。
随分前からか、それともつい先程からか、この音は聞こえ続けていた。
動かない体で空を見上げながら、きっとこれが痛いということなのだろう、と思った。
生まれ落ちてすぐに雷の力を手に入れた自分は、痛みなど感じたことが無かったから、青海から来た少年によってもたらされたこの感覚にまだ戸惑っていた。口の中で、血の味がする。 もう動こうと思っても、指の先が僅かに動く程度だった。
…それでも、お前の母の一部は消えてしまったぞ、ガン・フォール。
思考の中でだけ彼を嘲笑してやった。彼の”母”は自分が消した。神は全てを奪ってもよいのだから。
結局自分の求めるものは手に入らずに零れ落ちていってしまった。私の想った世界。それは消える。
母たる故郷を消し去っても、涙のひとつも流れなかった自分には、もう地獄にさえ行く事ができないのかもしれない。
自分が生まれ育った国を消し去る時、ただ思ったのは、あの花も一緒に消えてしまうのは悲しいということだけだった。
この音が聞こえ出した時にやっと思い出した。あの花の匂いがしないのは当然だ、ここはスカイピアであってビルカではない。
そしてまた、思い出した。
自分が欲しかったのは何だったのだろう。大地、どこかで憧れていたのだろう彼、意のままの世界、黄金…どれも近いけれどそれではない。

大地にしか咲かないあの花、それを限りない大地に咲かせたかった。

あの美しい花を、限りない大地に限りなく咲かせたかった。きっとその世界は、夢よりも素晴らしいだろうと。
どうして今まで忘れていたのだろう。
先程から聞こえ続けていた音が鐘の音だと気付いた時、懐かしい匂いが鼻を衝いた。
何よりも好きだったあの花の香りを感じながら、神は微笑んで目を閉じた。







☆なじ☆
…まあその…神→ガン・フォールさんです(小声)
略称としちゃ神神(カミカミ)で。
神侍女とかの話してる時えりちゃんとの語り合いがエスカレートしてていうかもう神ガン・フォールさんとか誰かやんねえかな、と勢いに任せて言って捏造ブチかましてってたら次の日にえりーが何ともステキックな神神を日記に書いてくれたんですよ! それ見てア、自分でかいてみたいナ★デヘ★と思いました。
色々ツッコミ所はございますがとりあえず最後ゴッドは別に死んでるわけじゃないということと、ここはどこじゃということです。
因みにガン・フォールさんとの会話じゃないとこは一応ルフィとの闘いが終わった後で…今現在本誌は「巨大豆蔓」で最終決戦はまだ終わってないので本誌がそこまでいってキャー全然ちっげーよー☆って展開だったらその時この話修正するかもしれまてん。

↓がえりちゃんの日記☆ 


6年前どこぞの空島からスカイピアに攻め込んできた時にえねるはガン・フォールさんにヒトメボレしたんですよ。うわこのジジイカッコイイなとか。でもあなたと私は所詮敵。あなたは目的の為に邪魔な存在。排除せねばならない悲しい運命です。出会ったばっかで成り行き上ガン・フォールさんをズタボロにしちゃったえねる。ホントはめっちゃ悲しいけどそんな様子誰にも見せたくないからなかなかいい社だとかどうでも良い事ゆって強がってるえねる。ガン・フォールさんを海へでも放り投げさせたのは神官達の手前です。その日からえねるの6年越しの片想いが始まったのでした。ガン・フォールさんがおうちを自分の心綱の届かないとこにたてちゃうからアレーガン・フォールドコイッタノー状態。それでもえねるくじけない。ああもう言ってて気持ち悪くなってきた。「…いや3人だな ジジイはもう戦えまい…」とかゆってガン・フォールさんを数から外したのも彼に傷ついて欲しくないという思いからです。もうホントキモイ。「冷たい言いぐさじゃあないか…」 えねるちょっと傷ついた。「黙っていれば(黙点省略)何も(省略)しない(略)」 訳:ガン・フォールと私の会話を邪魔するな。 「お前に別れの挨拶でもと……ここへ来た」 ンなの建前です。お前の顔が見たかったからここへ来たんです。ちょっとでも長く話していたいから別に言わんでもいいようなシャンドラ云々の話をして時間を稼ぐえねる。健気ですね。時間が無くなってきました。もう行かねば。もっとっていうか寧ろずっとその場にとどまりたいのをこらえて羊船を後にしようとすると、後ろから「待て!!」の声が。一瞬何かを期待してしまうえねる。 「神隊は解放するのか!!?」 …(勝手な)期待を裏切られてえねる心の中でキレた。今朝神隊を手にかけてきてよかったと心底思うえねる。後でいやみったらしく「”神隊”を心配していたな」とか言うのは(勝手な)期待を裏切られたささやかな仕返しです(ショボイ…)。捨て科白残してさようなら。微笑が涙の代わりだぜ。そいでまあ今手元に資料がナインで詳しい事は言えませんが(いや言わんでいいし)、その後再びガン・フォールさんと会えて内心ウキウキなゴッド。でもガン・フォールさんが自分の考え判ってくれないからちょっぴり悲しいゴッド。やっぱり所詮私とあなたは敵なのね。6年越しの片想いへ別れを決意するゴッド(さっさ決意しとけ)。他のヤツに倒されるくらいなら私がお前を倒そうじゃあないか。ガン・フォールさんを手にかけた後のゴッド、ホラ背中が寂しそうです。アレホントは泣いてるんです。いい加減マジでキモくなってきたのでもう止めます。妄想テラーは夏の暑さで頭の中がキマッてしまったえりでした。
ところで2200ボルトの電流で人の脳が破壊されるそうです。…ゴッドアンタ…
あの、因みに↑の妄想はギャグですギャグ、冗談です。ホントです信じて下さい…ジョークなんです…チステなんです…


ジョークとかいいつつ真面目に話書いちまった私。

03.10.11



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