神さまは天使の羽根をそっと撫でた。 「羽根があるというのはどういう感じなのかな」 いきなり触れられた驚きに天使は体をびくんと震わせ、恥ずかしそうに頬を赤らめ目を伏せた。 「私は羽根がないからよくわからなくてね」 天使は背後に華奢な手をやって、純白の羽根に触れた。 いとおしそうに触れた。 ように見えた。 「他の方はどうかは判りませんけれど、わたくしは、羽根などいりませんでした」 「何故」 「飛べもしないのに羽根などいりません。鳥たちのように飛べたならと空への憧れを募らせるばかりでしたら、いっそ翼など最初から無かった方が、どんなに良かったでしょう?」 「鳥でもないのに、どうして羽根などあるのかな」 天使は羽根から手を離し、ためらいがちに顔を上げた。 おずおずと答えた。 「わたくし達が空に生まれ、空で生きるからでしょうか」 「なるほど」 雲でもないのに鳥でもないのに。 何故生まれ何故生きる。 「…けれど、わたくしにとっては残酷なことです」 「いいじゃあないか。もともと人は空を飛べなどしないのだから」 …生まれもしない。 「だって、それでは限りない大地に行くことも叶いません、あなた様のおそばにについていくことも」 はっと気付いて、天使は両手で口元を覆った。また頬を染めて。 「空を飛ぶ方法などいくらでもあるさ」 神さまは笑って目を閉じた。 「もとよりこの世界の存在は自然の秩序を乱している。それを私が正す」 人は空など飛べなくていいのだ。 羽根ももともと不必要なもの。人が憧れた空への夢。 木も草も花も人も何もかも、みんなみんな。 「羽根を持ちながらも、飛べない存在などあってもよいのでしょうか?」 「大丈夫さ。いずれみんな飛べなくなるから」 |
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