「何をしに…?観光かい…戦争かい?」
オイ、あそこ見ろ!…何だテメェ…ここの門番か!?……
「いいや違う…あたしはただの”監視官”」
監視官だと?…おいバァさん、おれ達ゃハイウエストを通ってここに来たんだ、中に入りたい……
「通るのかい、それなら入国料一人10億エクストルを頂くよ。お前達は何人だい?」
なッ、10億エクストルだと!?…ババア、おれ達でも空の通貨は知ってんだ、そんな法外な金払えるか!…バカ言ってんじゃねェぞ!……
「法外かい?これは法律、定められたことだ」
フザけるな!…おい待てよ…払えるわけねェだろ…仲間も半分以上失ったってのに…どうするんだよ……
「落ちつきなさい、ここの天国の門は優しい…金持ちならばなおのこと入りやすいし、らくだが針の穴を通るよりも比べようもなく通るのは簡単だ」
何だと?…どういうことだ?……
「入国料、払えなければそれでいい。お通り」
は?…ばあさん、タダでも良いってことなのか?…騙してるんじゃないだろうな……
「構わない。13人だね――」


いつものように”不法入国者”達を見送ったアマゾンは、豪奢な作りの門を見上げた。
この煌びやかな門だけ見れば、本当にここは”天国”に最も近い楽園だと思えるだろう――この門だけ見れば。
何とはなしにかぶりを振って、室内へ戻ろうとした時、うなじの毛が逆立った。すぐ背後に何者かの気配を感じた。
「振り向くな」
この門の造りゆえに、声が内にこもって反響する。
声が聞こえて、反射的にアマゾンは振り返ってしまった。
愉快そうに笑っている神さまが立っていた。
「ダメじゃあないか…振り向くなと言ったのに。後ろを見るなと忠告されていたのに振り向いてしまっては、塩の柱にされてしまうぞ」 と、神さまはくすくす笑った。
神さまなりのお遊びだとすぐに判った。「ご安心を、わたくしはロトの妻のような愚か者ではございません…本当に”その時”が来れば、何があろうと神のお言葉に従いましょう」
アマゾンは深々と頭を下げた。
「お珍しいですね、このような所へお出でになられるとは。ご用件は」
新しい「神」が君臨し新しい「法律」が制定されてから3ヶ月ほど。ここ”天国の門”の監視官という仕事を自分が任され、神さまがここへ姿を見せたのは初めてだった。
「いや別に。探し物が見つからなくて暇なものでね、ちょっと様子を見にな、それだけだ」
「このような所に来られても、却ってお暇でしょうに、面白いものなど何ひとつございません」
「いやいや、なかなか」 神さまはすたすたと歩いていき、つい先程青い海から来た者達を乗せた船が通過して行った方向を見た。 「ああいうハエ共を見るのも案外面白かった」
神さまは左手を水平にして目の上にやり、右手の指を順々に折っていった。
「13人か、4で割って余り1。ヤハハ、あいつらまたケンカだろうなあ」
「わたくしは犯罪者達の行く末を知り得ないのですが、やはりあの者達は死によって罰せられるのでしょうか」
「犯罪の級によるが大抵の奴らは罰を受け入れない、よって自業自得だ、ああ、愚か。聖書にもあるだろう?罪の果ては、罰の滅びだ」
アマゾンは僅かにかぶりを振った。 「…国民達は大丈夫なのでしょうか、それで。つまり、その、見せしめと申しましょうか、外より来た者達をそのように罰していて国民達に怯えの気持ちが生まれはしないかと」
「んん。良い所をついたな、ヤハハ」
神さまはにっこり笑ってアマゾンの方に向き直った。アマゾンも顔をあげる。
「人という生き物を支配するにあたって、最も効果的な感情は恐怖だ――まあ、他にもあるにはあるんだが――恐怖による支配は同時に反感も生むが、ならば逆らうという気も起きないような、圧倒的な、絶対的な、美しいまでの恐怖を与えてやれば良いだけのこと。憐れむべき反逆者など出やしない、だから安心するのだ、私はお前の愛する国民達を手にかけたりなどしないから」
神さまの笑顔がとても恐ろしく見えたのはその時だった。
時々、神さまは人の心が読めるのでは、と思ってしまう――心までは読めないはずなのに。
「…ん、優秀な子羊達だ、早速犯罪者達を導いてくれている。私ももう戻るとしよう、邪魔をした」
アマゾンが返事をしようとした時すでに神さまの姿はなかった。
(―――主のお告げ、)
辺りに響いていたのは神さまの高らかな笑い声だけ。
(地をはるか越えて天が高いように)
アマゾンはしばらく動けもせずにその場に立ち尽くし、神さまがいたところをただじっと見つめていた。
(主の道は)
それから老女は弱々しく目を閉じた。うっすらと目を開け、さっきしたのと同じように、門を見上げた。
(人の道をはるかに越える、)
神さまが何を考えていようと、今まで何をしてきたのだろうと、今何をしているのだろうと、これから何をするのだろうと、
自分はただ、この”天国”への狭き門を通ろうとする者達の意思を聞くだけ。
(神の思いは人の思いより)
それだけしか、できないのだ。
(極まりなく高いのだ。)
ああ、いつまでもここに立ち尽くしているわけにはいかない、また門を叩く音がする………



青い青い空の下、
辺りに響いていたのは神さまの高らかな笑い声だけでした。
「さあ、福音だ、時は満ちた、神の国は近づいた!」






☆なじ☆
アマゾンのばあさんが書けて楽しかったス!
アマゾンのばあさんってあの羽根の形からするにスカイピアの人ですよね?そんでですね、あの天国の門はガン・フォールさんが神様だったころからあったんでしょうか。 あったにしてもあんな監視官とか置いたりクソ高ぇ入国料取ったりしてたんでしょうかー。そのへんよくわかんなかったんで割とあやふやに。コレ時期的には一応6年前あたりで☆ ていうかアマゾンのばあさんとゴッドて顔会わせたことあるのか不明の上いくらヒマでもあんな門のとこまで来るのかっつー話!
最初の科白とかにも聖書からとったもんがあるんですが、最後のカッコでくくってる文章と「時は満ちた〜」ってのも聖書ヨリ。 タイトル「エル・シャッダイ」、中のタイトルにも書いてありますが多分ヘブライ語で「いと高き神」。


03.5.23


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